TIMESCAPE INTERVIEW

2020.01.22
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INTERVIEW 04

麻生宏/プロデューサー

ASO HIROSHI

福岡市を拠点に、ホテルやレストランを開発・運営するIMD Alliance株式会社。飲食やホテル業界に身を置く人じゃないと社名を聞いてもピンとこないかもしれないが、パンケーキがおいしいと評判の『白金茶房』、蕎麦と日本酒にコーヒーをプラスした『赤坂茶房』、福岡を代表する中華料理店の一つ『星期 菜』、九州の山海の幸が味わえる『九州の旬 博多廊』といった店名を聞けば、「あそこの店をやっている会社なんだ」と親しみを感じる人も多いだろう。フードやドリンクのクオリティの高さはもちろん、その洗練された空間、高いデザイン性で福岡の飲食業界をリードし続けるトップランナーだ。

そんなIMD ALLIANCE株式会社の代表取締役社長を務めるのが、今回お話をうかがった麻生 宏氏。19歳で独立し、自身のレストランを開業。その後、日本初のデザインホテル『HOTEL IL PALAZZO』の取締役総支配人に26歳の若さで抜擢され、さらにその後、カトープレジャーグループ常務取締役兼KPG HOTEL&RESORTの取締役社長に就任。全国のホテル、リゾート施設の再生・運営を一手に引き受けてきた。そんな経歴を有する麻生宏氏の人生観、発想力、バイタリティに迫りたい。


Vol.01 僕がホテル・レストランプロデューサーを志すまで。

中学生のころから、学校で学ぶことに意味があるのか?という疑問を抱いていたという麻生氏。両親の意向もあり、高校に進学したものの、やはりその問いの答えを見出だせず、高校1年で中退。すぐに日本料理店の板前見習いとして働き出す。これが現在、ホテル・レストランプロデューサーとして活躍する麻生氏のキャリアのスタート。

「僕が若いころは、良い車に乗ることが一つのステータスだったんです。中学時代、通学路の途中に小さな喫茶店があって、そこのマスターが愛車のマスタングを毎日のように洗車して、お客様とコーヒーを飲んで談笑している姿を見ていたから、『喫茶店って良い商売だな』って思っちゃって(笑)。将来は飲食業に入ろうって。安易ですよね(笑)。最初は料理人を目指していたのですが、手荒れがひどくて、板場に立てなくなってしまい、それでサービスに転向したんです。もともと、自分の店を持ちたいと思っていたから、とにかく、日本料理店に訪れるお客様に名刺をいただいて。いつか自分の店を持つので、その際にご招待させてください的なことをいい回っていたんです」と当時を振り返る麻生氏。そんなとき、常連の一人から「空きテナントがあるから、店をやってみないか?」といわれたのが独立のきっかけになる。「中卒かつ、修業中の身だったので、開業資金なんかまったくなかったのですが、そのお客様がお金ができたら家賃を払えばいいっていってくださって。じゃあ、やってみようって。1号店は諫早市内で開いたパブレストランだったんですが、それがヒットしましてね。次々と2号店、3号店をオープンさせました」と麻生氏。ヒットした理由はなんだったのだろう。「当時はほとんどなかったお酒の飲み放題システムを取り入れて、さらに、とにかくお客様に楽しく、気持ちよく過ごしていただけるお店作りに励みました。それが、よかったのかもしれません」と振り返る。ただ、そのまま順風満帆というわけではなかったそう。逆にそれが、ホテル・レストランプロデューサーとして敏腕を振るう現在の麻生氏の礎になっていく。


Vol.02 ホテル・レストランプロデューサーとしての今。

「長崎県内を拠点に5つは姉妹店を出したでしょうか。まだ長崎にはなかったですが、東京や大阪、福岡などでブームの兆しがきていたパスタの店も手がけたり。そんなときに、東京の株式会社ジャスマックが長崎市内に『ウィズ長崎館』という商業ビルを建てるという話しを耳にしまして、そのビルの100坪のテナント出店に手を挙げたんです。完全に調子にのっていたんですね(笑)。そのとき出会ったのが、現在、株式会社ジャスマックの会長をされている葛和 満博さん。その当時、23、24歳の若造だった僕のお話を真摯に聞いていただき、葛和さんは今でも私が尊敬している経営者の一人であり、大恩人です。そんな出会いもあり、『ウィズ長崎館』に当時、東京にもなかったような最先端のデザイン性を備えた和食店を開いたんです。ただ、これが見事に大外れ(笑)。モダンですごくかっこいい空間なんですが、とにかく落ち着かない。とんでもない額の借金を背負い、経営していた店をすべて手放しました」。周囲はバブル景気で盛り上がるなか、「一人でコケてた」と笑う麻生氏。失敗の理由を「かっこよさばかりに注力した。形だけを追い求めた結果」と顧みる。

ただ、この失敗さえも無駄にしないのが麻生氏。そのおよそ3年後に、ジャスマック株式会社が手がけた日本初のデザインホテル『HOTEL IL PALAZZO』の取締役総支配人に就任。「葛和会長にひろっていただきました。26歳という若さでホテルの総支配人をまかせていただけるとは思ってもみなかったので、とにかく自分ができることを精一杯頑張りました。アメリカ建築家協会賞を、当時アメリカ国外では初めて受賞したことで、世界的に脚光を浴びたのも大きかったですね。日本国内はもちろん、海外からも多くのお客様に訪れていただきました。そのときに出会ったのがカトープレジャーグループの代表だった加藤です」。

現在、カトープレジャーグループとIMD Alliance株式会社は提携会社。そのつながりはカトープレジャーグループ代表取締役兼CEOの加藤友康氏と麻生氏の長年にわたる付き合いにある。加藤氏と交流を深め、32歳でカトープレジャーグループに入社した麻生氏は、福岡のホテルの再生、長崎温泉やすらぎ伊王島の再生、沖縄の2軒の大型ホテルの開発・運営など、そのアイデア力、経営手腕を存分に発揮。

「例えば、閉館した福岡市内のホテルを買い取ったときも、220室ある客室が100室ぐらい稼働しない日もあったんです。ある日、中洲で飲んでいた友人が大野城市までタクシーで帰らなきゃならないとぼやいていて、同料金もしくはそれよりも安く宿泊できるホテルがあれば需要はあると考え、ミッドナイトプランを発案しました。確か当時、1泊2980円という料金設定にしていたはず。客室が空いていれば、そのプランを出して、客室稼働率を93%ぐらいまで上げましたね」と麻生氏。建物や設備といったハード面を変えられなければ、サービスやプランといったソフト面で工夫をすればいいという、麻生氏らしい発想力が光るエピソードだ。さらに、「根っからのホテルマンじゃなかったのもよかったのかもしれない」と続ける。「僕がホテル運営に携わったころ、シティホテルというのは分業制で、清掃会社は別注するというのがセオリーだった。でも、私は派遣というのが理解できなくて、自前で清掃チームを作った方がいいんじゃないかと考えたんです。派遣で高い人件費を支払うのはもったいないでしょ。そうすることで経費を削減できるし、なにより、自社のスタッフで作業を行うので、効率もよくなった。そんな経験から、常識に囚われないことも大切だと考えています」と麻生氏は語る。

カトープレジャーグループにおいて、そんな経験を積んだ約15年。2010年に IMD Alliance株式会社を設立。それから10年が経ち、今や福岡の飲食業界を代表するプロデューサーとなった麻生氏。今まで積み上げてきた経験だけがその活躍の原動力なのか。次項では日々行っているルーティーン、考え方にフォーカスを当ててみる。


Vol.03 仕事と遊び。

ヒットするレストランやカフェ、ホテルを開発・運営するためには、時流やトレンドを読み解く嗅覚は必須だ。IMD Alliance株式会社が手がける飲食店は、どこも常に話題に上り、さらにその人気を継続できている。どのように、その嗅覚を磨いているのか知りたくて、習慣として意識的に行っていることをたずねてみた。

麻生氏から返ってきた答えは「毎日、新聞を読むこと」。「ジャスマック株式会社の葛和会長から、『麻生くん、君は大学はもちろん高校も出ていないのだから、新聞だけは毎日読むようにしなさい』といわれたのが始まりです。『HOTEL IL PALAZZO』の総支配人をしていたころ、葛和会長に会う度に、時事問題や世間の動向、流行について、ランダムに質問されていたので、それに対し的確に回答し、かつ自身の考えを述べられるよう毎日、新聞2誌は必ず目を通すようにしていました。それが習慣化し、今でも続けています。日々新聞を読んでいると、こういう記事が増えてきたなとか、こういう論評が目立つようになってきたなとか、こういう業種が注目を集めそうだなとか、なんとなく肌感で感じ取れるようになる」と麻生氏。ただ、こうも続ける。「情報を新聞などメディアから得るだけではダメだと僕は考えています。気になる情報を手に入れたら、必ず、その場所に自ら足を運んで、体験することが大事。百聞は一見にしかずということです。それこそ、すごく忙しい時でも、最終便に乗って北海道のホテルに行くぐらいの行動力が必要。実際に自身の目で見て、触れて、ときには食べて、サービスを受ける。滞在している時間、そこがなんで話題を集めているのかを考察し、自分なりの答えを導き出さないといけない。だから僕にとってプライベートの時間もやはり、仕事にどこか結びついています」。

SUPPOSE DESIGN OFFICEの谷尻氏や吉田氏、ZEN環境設計の中村氏同様、麻生氏もやはり仕事と遊びの境界線はないようだ。「遊びと仕事の関係性ってすごくシンプルだと思います。例えば、野球が好きな少年が、楽しいから野球を続けて、上手になってプロになる。最初は遊びだったことが、仕事になる、わかりやすい例です。私も少し前まではなにかしら趣味を作ろうといろいろなことにチャレンジしてみましたが、無理やり始めたことはどうも長続きしない。やはり、心の底から楽しいと思えていないんでしょうね。そう考えると、私の趣味は店を出すことになるのかな(笑)。好きなことが仕事になれば最高でしょう」と笑う。

「私はやりたいことと資金繰りは別だと思っています。こんなレストランやホテルを作ってみたいけど、お金がないからな~、なんていう発想はしません。この場所にこんなレストランやホテルを作ってみたい!まずはそれを思うことが大切。お金は、『この人に託すことができるか』といった程度のただの手段でしかありませんから」と麻生氏。手取りで給料5万円そこそこしかなかった19歳の青年が、自身の店を持ってみたいという強い思いだけで始めた飲食店。それが麻生氏の人生をかけた“遊び”だったのかもしれない。


Vol.04 LANDICと麻生宏。

麻生氏が代表取締役社長を務めるIMD ALLIANCE株式会社は西中洲に建設を進めるホテルのオペレーションを担当する。麻生氏はどんなホテルにしたいと考えているのか。
「福岡の新たな“ランドマークになるようなもの”を作りたいと考えています」と答えは明快。

その言葉からは『HOTEL IL PALAZZO』をはじめ、IMD ALLIANCE株式会社が手がけた『白金茶房』を彷彿とさせる。『HOTEL IL PALAZZO』がある春吉の裏通りは、かつて暗いイメージがあった。それが1989年にホテルが完成するや、スタイリッシュかつ大人びた情緒のある通りに姿を変えた。2013年にオープンした『白金茶房』も然り。6年前は最寄り駅からもやや距離があり、飲食店さえ数少なく、暮らすだけのエリアだった白金。ただ、『白金 茶房』が登場したことで、訪れる理由のある街へと変貌した。飲食店もそれを機に増え、さらに今ではオシャレな文房具店や雑貨店、コーヒースタンドなども点在。今では、福岡を代表する洗練されたショップが集まるエリアとして認知されている。

「純粋に施設を作るだけではなく、そのエリアの価値を上げるのもディベロッパーの役目の一つだと私は考えます。いいものを作ることができれば、多くの人が訪れる。結果、その街に新たなビジネスチャンスが生まれ、自身の店をこの場所で営んでいきたいという人も増えてくる。つまり好循環を生み出すことができる。そういった意味でも、西中洲にもそんな空間を作りたいんです。建物をSUPPOSE DESIGN OFFICEの谷尻先生や吉田先生、ZEN環境設計中村先生が手がけるということだけで、すでにすごいこと。私たちは、そこでなにが“体験”できるのかという点に注力していきたい。現時点ではアイデアフラッシュ程度ですが、例えば福岡県外の話題のレストランに、数ヶ月単位でポップアップで出店してもらったり。そんな、ほかではできないような“体験”が生まれる空間にできたらおもしろいと思ってます」と麻生氏。さらに、こうも続ける。「現在、福岡市内はホテルの建設ラッシュ。客室数が足りないことなどがその理由に挙げられますが、ゆくゆくは状況が変わり、供給過多になる可能性も大いに考えられる。じゃあ、そんなときに淘汰されないようなホテルを作るべきではないか。“ランドマークになるようなもの”というのは、そういう意味を多分に含んでいます。時流を捉える必要はあるのだけれども、一方で社会動向などに巻き込まれないホテルであること。ある意味、まちづくりに近いのかもしれません」。

PROFILE
麻生宏
プロフィール画像
19歳で独立、レストランを経営。その後、福岡市内の『HOTEL ILPALAZZO』の取締役総支配人を経て、ホテル・レストラン・リゾート施設の開発、運営を行うカトープレジャーグループ常務取締役兼KPG HOTEL&RESORTの取締役社長に就任。
全国のホテル、リゾート施設の再生から運営、沖縄では『東京第一ホテルグランメールリゾート』『カフーリゾートフチャクコンド・ホテル』『GLAMDAY STYLE HOTEL & RESORT OKINAWA YOMITAN』(計700室)、規模にして230億円以上の開発から運営までを担当。
また、ラグジュアリー旅館として現在全国に展開している、箱根『翠松園』、熱海『ふふ』の業態、施設開発も担当し、2010年9月IMD ALLIANCE株式会社を設立。
代表取締役として、ホテル開発運営、レストラン、ケータリング、コンサルタント業などを営む。2019年4月より九州産業大学地域共創学部観光学科にて講師就任。

[photo]Hiroto Sakaguchi[EGG STUDIO inc.]

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