TIMESCAPE INTERVIEW

2019.10.07
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INTERVIEW 02

吉田愛/建築家

YOSHIDA AI

広島と東京を拠点に活動する建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICE(サポーズデザインオフィス)。建築家の谷尻誠氏と吉田愛氏が共同代表を務める事務所で、JCDデザインアワード大賞、福岡県美しいまちづくり建築賞大賞、住まいの住環境デザインアワードグランプリ、など国内外問わず数々の受賞歴を有する。ここ最近では、渋谷に2018年2月にオープンした「hotel koe tokyo」、2017年春に完成するや、その斬新な発想が各メディアに注目されたSUPPOSE DESIGN OFFICE東京事務所併設のダイニングカフェ「社食堂」など、話題性の高い空間を創造。
そんな、今最も勢いのある建築設計事務所を牽引する谷尻氏と吉田氏に、LANDICが建築思想として掲げる“タイムスケープ”をテーマに、「過去」「現在」「未来」について、語ってもらった。


Vol.01 私が建築家を志すまで。

谷尻氏と同じ年で、生まれ育った場所も同じ広島。偶然、穴吹デザイン専門学校で同級生となり、吉田氏と谷尻氏の関係性は始まった。
吉田氏は谷尻氏の言葉を受けながら、「私も似たような感じですね」と一言添え、こう続ける。「私は昔、祖父母たちの住む古い木造建築の母屋に付随する小さな離れに住んでいました。水まわりは母屋にしかなく、長くて暗い廊下を通ってお風呂に行くのが恐怖で、、、郊外とかにある最新のモデルハウスや、新築の友達の家に行っては、憧れを抱いていました。よく新聞に折り込まれてくる分譲住宅のチラシの間取り図を見ながら、『ここにベッドを置いて、ダイニングテーブルはここで…』みたいに想像をして楽しんだり。そんな風に、憧れや夢として、“家”という空間に興味を持ったのが、建築家を目指したきっかけの一つです」。

いつも笑顔を絶やさず、飾らず、自然体で立ち振る舞う吉田氏。谷尻氏とは同級生とはいえ、専門学校を卒業して、6年後に立ち上がったSuppose design office。どういう経緯で一緒に仕事をするパートナーとなったのか。

「専門学校を卒業した後、施工会社のインテリア部やグラフィック会社、インテリアカフェのショップに勤めたりと何かしらデザインに関わることを仕事としていました。2000年に谷尻がサラリーマンをやめて独立しようかなというタイミングで、友人たちとともにグループで面白いことをしようと盛り上がり、お店の設計の図面書きの手伝いや、それに付随するショップカードや名刺のデザイン、ライブのフライヤーを作ったり、オリジナルの洋服を作って販売したりしていました。経理も担当していて、最初は本当に遊びの延長線のような感じでスタートしました。1年後の2001年から自分の仕事をやめて、Suppose design officeとして本格的に働きはじめました。ちょうどそのタイミングで、私の高校時代の友人が家を建てるから、手伝ってほしいという依頼が来て。それがSuppose design officeの1棟目の建築です。ログハウスを建てたいという希望で、もちろん私も何の知識もないから、一生懸命調べて、勉強しました。とはいえ、友人の家なので、お互い楽しみながら家を作りましたね。仕事も遊びも一緒くたみたいな。建築以外でも、Tシャツのデザインをしたり、クラブのフライヤーを作ったり。仕事以外で繋がった仲間と楽しいことを作り出す、みたいなスタンスで仕事をしていました」と当時を振り返る。

そのスタンスは今も変わらないようで、「24時間、仕事であり、遊び」と笑う吉田氏。谷尻氏と共に代表という立場になり、建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICEを引っ張る今。吉田氏が考える、仕事やスタッフに対する向き合い方とは。


Vol.02 建築家としての今。

吉田氏と谷尻氏は20年来の戦友のような関係性。ビジネスパートナーとして、SUPPOSE DESIGN OFFICEを着実に日本を代表する建築設計事務所へと成長させている。
現在は広島と東京の2拠点生活を送っている吉田氏だが、週の始まりの月曜は、ヘッドオフィスがある広島に帰るようにしているという。

「事務所を立ち上げた広島を今も拠点にしているのは、東京だけがすべてじゃないっていう、田舎者の反骨心みたいな気持ちもちょっとだけ(笑)。もちろん、東京でのお仕事もたくさんありますが、広島も含め、地方の魅力を創出する仕事にも意義を感じています。仕事をやる場所や規模は関係なく、私達に期待していただける仕事はこれからもずっと大切にしていきたいんです。また、広島で働いているスタッフは、毎日一緒にいることはできませんが、大切な仲間。彼らとコミュニケーションを取るのはもちろん、無理をさせていないかとか、ちゃんと目を配る必要が今の私にはあります。仕事を始めた頃と同じ、『24時間、仕事であり、遊び』というスタンスは変わらないのですが、今は共同代表としての責任があります。社員のみんなが健全に、健康的に仕事に取り組めるよう、働き方自体にもクリエイションが大切だと考え、社内全体のプロジェクトマネジメントや仕組みづくり環境整備なども行っています」と吉田氏。
その話しを聞き、思い浮かぶのが、東京事務所に併設しているダイニングカフェ「社食堂」だ。事務所内に飲食店を併設させ、事務所で働く社員のための食堂と、一般客も利用できるカフェという、2つの機能を兼ね備えた空間になっている。ここにも表れる、吉田氏や谷尻氏の思い。

「事務所で働くスタッフが35〜40人ぐらいに増えて、みんなで一緒に食事をするタイミングがなかなか取れなくなっていて。食事の時間は、コミュニケーションを取るのに最適ですよね。元々、社員食堂を作りたいと思っていたこともあり、それなら、スタッフはもちろん、一般のお客様も利用できる空間を作ってしまおうという発想が生まれました。事務所に社員食堂があって、同じタイミングでみんなが食卓について、ちゃんとしたご飯を食べれば、自ずと会話が生まれ、そこから良いアイデアが生まれるかもしれない。スタッフ同士、ひいては事務所全体のチームワークを上げることにも繋がるし、なにより私や谷尻も含めて、スタッフみんなが健康的で、健全な暮らしをした方が、きっともっと良いアイデアが生まれるだろうと。働く環境が良いことで、SUPPOSE DESIGN OFFICEで長く働きたいと思ってもらえるスタッフが増えるといいな、という考えもありましたね」と、「社食堂」が生まれたきっかけを教えてくれた吉田氏。
もちろん、吉田氏にも同様に、谷尻氏が語る「名前を取ることで、さまざまな役割を持った空間が生まれる」という考えがある。
そうやって生まれた「社食堂」。根底にあるのは、吉田氏の言葉通り、多忙なときもスタッフ同士が楽しくコミュニケーションを取るための場であり、SUPPOSE DESIGN OFFICE全体の良いチームワークが生まれる空間というわけだ。


Vol.03 仕事と遊び。

「24時間、仕事であり、遊び」と話す通り、吉田氏は仕事と遊びの境界線が曖昧だ。谷尻氏が、「僕が知る限り、吉田のことを悪くいう人はいない。最良のビジネスパートナーです」と語るように、ニコニコといつも笑顔を絶やさず、仕事の規模や予算に関わらず、常に全力投球。

「谷尻も言っていましたが、私も仕事と遊びに境界線はないですね。もちろん、プライベートで過ごす時間は大切にしていますが、つい自分が今関わっている仕事と結びつけてしまうんですよね。学歴も重要視されるアカデミックな建築業界だけに、経歴も実績もない私たちは、仕事を始めた当時から厳しい条件の仕事も含め、とにかく数多くの物件を請けてきました。請けたからには、すべてのプロジェクトにおいて何かしらの新しい価値を提示し、良い意味での驚きや発見をし続けたい。そういう発想や気付きはどんな時間にもどんな場所にも転がっていて。それを見つけれるのか、そうでないかの差は、どういう意識でものを見るかの意識の差だけなんです。カメラを持って歩いていると、どのシーンをどういうふうに切り取るかを意識するはず。そう考えると仕事とプライベートという境界なく、日々を過ごすほうが毎日が圧倒的に楽しくなると思います」と吉田氏は笑う。
ここ最近では、ライフスタイルブランドの「koé」が運営する「hotel koé tokyo」のクリエイティブディレクション、設計、インテリアデザインを一貫して手がけたことで話題のSUPPOSE DESIGN OFFICE。ここにも吉田氏、谷尻氏らしさが溢れている。

「私も谷尻も専門学校卒業で、学歴では著名な建築家の方々や、大手企業には勝てません。現場で知識、技術、経験を積み重ねてきた、ある意味、工務店さんやクライアントさんに育ててもらったと思っています。SUPPOSE DESIGN OFFICEの立ち上げ当初、数年間は厳しい条件の仕事も数多く手がけてきました。その厳しい条件をどうやって価値に変えるか。価値創造や価値変換こそが私たちが得意とする発想、着眼点だと考えます。例えば、2018年2月にグランドオープンした『hotel koe tokyo』のシングルルーム。わずか18㎡しかない空間を、どうすれば宿泊したお客様に魅力的に感じてもらえるか、価値を高めることができるかを考えたときに、茶室が思い浮かんだんです。茶室ってとても小さな空間で、でもそこに日本の美の精神性が凝縮されていますよね。小さい、狭いことを価値に置き換えてしまおうという考え方です」
ただデスクに座って考えるだけではなかなか思いつかないことも、仕事、プライベート問わず、今までに訪れたいろいろな場所や経験を結びつけていく。仕事と遊びに明確な線引きをせず、常にどんなことでも理由や意味を考えてきたからこそ、そんな斬新なアイデアが生まれるのだろう。
吉田氏はこうも続ける。「思わず声を上げてしまいそうな、鳥肌が立つような空間体験ってあるじゃないですか。昔から、そんなシーンに立ち会ったときに、意味や歴史を深く考えていたかというと、そうではなくて。純粋に『あの時、あの場所でこういう感動をした』と覚えている程度でした。ただ、自身が空間を創造するようになって、より深く考察するようになりました。そう考えると、建築の仕事に携わるようになってから、ますます仕事と遊びの境界線がなくなったかもしれませんね(笑)」


Vol.04 LANDICと吉田愛。

「hotel koe tokyo」に代表されるように、泊まるという行為を目的とした“住空間(仮住まいの空間)”を多く手がけてきたSUPPOSE DESIGN OFFICE。吉田氏はホテルという空間をどう定義し、どんなものであるべきだと考えているのか。
「ホテルという場所に期待することが急激に多様化している時代だと感じています。簡易に泊まれるカプセルホテル、コミュニティーが生まれるホステル、プライバシーを重要視したシティーホテルやリゾートホテルなどのカテゴリーに加え、その中でも様々な仕組みやランクのホテルが存在しています。サービスやコンテンツなどアイデア次第でホテルという場所は宿泊するということだけにとどまらない、たくさんの可能性があるのではないかと思っています。例えば、一日を終えて帰る場所としての安心してくつろげる空間でありつつ、いつもとは違う少しの非日常的が欲しかったり。カプセルホテルなのにラグジュアリーであったり、都市にありながらもリゾートを感じさせるなど、私自身はホテルに対してそんな相反する違和感というエッセンスを感じるホテルが記憶に残るいいホテルだったりします。ホテルの企画設計をする際には様々な可能性の中からまずは本質を探ることが大切です。今回のプロジェクトにおいてもホテルなのにアートがあるとか、階段や廊下や環境音などがアート作品の一部として存在しているなど、コンテンツとそれを成り立たせる運営やサービスの工夫をすることで、観光やビジネスで福岡に来た人と地元の人という通常であれば混じらない人々や物事が混じって、体験を生み、新しいカルチャーが生ま出されるような空間を創造していけたら。」と吉田氏。

広島に住んでいる頃は、よく遊びに来ていたという福岡の街。吉田氏自身、すごく好きな街の一つなのだそう。
「LANDICさんが、今まで手がけられてきた、マンションという“住空間”を拝見し、すごくイノベーティブなディベロッパーだと感じています。今回、ホテル以外にも、美野島にモデルルームを作るプロジェクトにも参加させていただくのですが、ただのモデルルームで終わらせたくないというのが、LANDICさん、私たち、それぞれ共通の思い。今日、初めて美野島という場所に行ってみましたが、マンションやビルも多く、都会的なイメージを抱きました。一方で整然としすぎて、少し寂しいという印象も。まだ憶測の域を出ませんが、モデルルームは都会の中に森を作るイメージが合っていると直感的に感じました。時が経つごとにどんどん植物が茂っていって、数年後には、そこだけが都会の中にポツンと存在する小さな森になっているような。実現するかしないかは、これからですが、そんな遊び心がある場所を創造してみるのもおもしろいと思っています。再開発が進む福岡の市街中心部で仕事ができるのは純粋に嬉しいですし、楽しみ。ただ、“ワクワク”するときは、それに比例して、納期のプレッシャーだったり、“ドキドキ”も増えてくるんですけどね」と、吉田さんは笑う。

 

PROFILE
吉田愛
プロフィール画像
1974年広島県生まれ。穴吹デザイン専門学校卒業後、地元広島のグラフィックデザインの事務所、インテリア関係の会社、家具販売店などを経て、2001年、谷尻氏が設立したSUPPOSE DESIGN OFFICEに加入。
2014年にSUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltdとして法人化し、谷尻氏と共に代表を務める。ここ最近の作品で話題を集めるのが、2018年に完成したコーヒー専門店「猿田彦珈琲 調布焙煎ホール」、本に親しむ場、フリースペースになっている國學院大學の「みちのきち 本の木」、渋谷の中心に2018年2月にオープンした「hotel koe tokyo」など。
常に笑顔でいることをモットーに、東京、広島の2つの拠点を中心に全国各地で活躍している。社食堂やBIRD BATH&KIOSKといった自社事業だけではなく、「絶景不動産」や「21世紀工務店」他を設立するなど、活動は多岐にわたる。

[photo]H.SAKAGUCHI

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