TIMESCAPE INTERVIEW

2019.08.22
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INTERVIEW 01

谷尻誠/建築家

MAKOTO TANIJIRI

広島と東京を拠点に活動する建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICE(サポーズデザインオフィス)。
建築家の谷尻誠氏と吉田愛氏が共同代表を務める事務所で、JCDデザインアワード大賞、
福岡県美しいまちづくり建築賞大賞、住まいの住環境デザインアワードグランプリ、など国内外問わず数々の受賞歴を有する。
ここ最近では、渋谷に2018年2月にオープンした「hotel koe tokyo」、2017年春に完成するや、 その斬新な発想が各メディアに注目されたSUPPOSE DESIGN OFFICE東京事務所併設のダイニングカフェ「社食堂」など、話題性の高い空間を創造。
そんな、今最も勢いのある建築設計事務所を牽引する谷尻氏と吉田氏に、LANDICが建築思想として掲げる“タイムスケープ”をテーマに、「過去」「現在」「未来」について、語ってもらった。


Vol.01 僕が建築家を志すまで。

1974年生まれ、現在45歳の谷尻誠氏。広島県で幼少期から学生時代を経て、社会人になるまでを過ごし、現在も「東京と行ったり来たりの生活ですが、広島が僕の大切な拠点」と話す。

そんな谷尻氏が建築家という道を歩み始めたきっかけとは。

「建築家になりたい、って昔から思っていたわけではなかったんです。 根っこにあるのは、元々ファッションが好きで、洋服と同じようにライフスタイルにも自分がかっこいいと思えるアイテムを取り入れた方がなんかステキだよね、ぐらいの感覚でした。 自ずと、デザイン性の高い家具に惹かれ、次に空間という具合に、少しずつ興味の幅が広がっていただけ」と話す谷尻氏。

オーストラリアのキャンベラに建つ、オフィスと集合住宅を含む複合施設「New Acton Nishi」に代表されるように、ワールドワイドに活躍する谷尻氏だが、 そんな感覚でデザイン、建築の世界に足を踏み入れたからなのか、有名建築家の中では珍しい専門学校卒。 名高い建築家は有名大学院卒、有名建築事務所出身がほとんどという中で、その学歴・経歴は稀有だ。

「広島の穴吹デザイン専門学校を卒業して、地元の建築設計事務所に入社して、5年ほど勤めて…って、普通でしょ(笑)。 若い頃は起業するつもりなんてさらさらなくて、不景気の煽りを受けて、会社を辞めなきゃならなくなっちゃって、『さて、どうしよう』って考えたときに、自分でやってみるか、ぐらいの感じで、2000年、26歳のときにSUPPOSE DESIGN OFFICEを立ち上げました。

もちろん、いきなり名もない事務所に仕事がどんどん舞い込んでくるはずはなく、飲食店のバイトを掛け持ちしながら、食いつないだ時期もあったりして。
その時の経験から、仕事を選びさえしなければ生きていけるぞって確信できたので、気負いはさほどありませんでしたね。

一方で、どんな小さなことでも相談があれば積極的に仕事をさせていただけるよう、アクションは起こしていました。 今だから言えますが、店舗デザインをやったことがなくても、むしろ得意だと施主さんを安心させ、その後で期待以上の空間を創り上げるために必至で勉強して、調べ上げて、結果を残すみたいな。 とにかく貪欲に仕事を求めていた。そんな経験から、やったことがないからできないなんてことは絶対にないと考えるようになりました。 最初は誰しも、なんでも“初”。そのチャンスにどう向き合うか。
“できない”ではなく、“どうすればできるようになるか”を考えるのが大切だと、僕は考えています」

そうやって、無名ながら、小さな仕事でも、今の自分ができる最高を形にしていくことで、少しずつ仕事の幅を広げていった谷尻氏。 ファッションが好き、デザインが好き、心地よい空間が好き。シンプルに“自分が好きであること”を突き詰め、形にしていくという思考からスタートした谷尻氏の建築家としての歩み。 来年で設立20年を迎えるSUPPOSE DESIGN OFFICE。国内有数のデザイン力と企画力で、活躍の場をどんどん広げている今、谷尻氏はどんな思いで日々の仕事に取り組んでいるのだろう。


Vol.02 建築家としての今。

2020年で設立20年を迎えるSUPPOSE DESIGN OFFICE。谷尻氏は共同代表の吉田愛氏をはじめ、スタッフらと共に、100件以上の住宅を含めた、400件超の仕事に携わってきた。もちろん、現在も多くの依頼を受け、全国を飛び回っている谷尻氏。それは少しでも光が差す可能性を感じれば、積極的に人に会いに足を運んだり、どんな小さな依頼でも進んで引き受けてきた谷尻氏のスタイルに起因するものではあるが、それだけの数の依頼が、現在進行系で続いているということは、SUPPOSE DESIGN OFFICEが手掛けてきた空間が、素晴らしいと評価されている証だろう。

最初は身近な友人・知人の紹介から仕事の幅が広がり、県外からの仕事の依頼が少しずつ増え、創り上げた空間が世間的に評価され、日本を代表する建築設計事務所の一つへと成長していったSUPPOSE DESIGN OFFICE。そんな現況に身を置いている谷尻氏は、日々どんな思いで仕事と向き合っているのか。
「仕事への向き合い方は、起業した当時と同じですよ。指名でご依頼をいただければ素直に嬉しいですし、できる限りオファーいただいた案件はお手伝いしたいという思いは変わりません。ただ、今取り組んでいる仕事が、これからの仕事を決めると考えるようになりました。すなわち、それはこれからの僕自身の方向性を選んでいくということなんです。スタンスを明確にして、それをしっかり表明することが重要。簡単に言うと自分を殺してまでやる仕事はしないってことですかね。自分を殺すということは、相手に嘘をついているのと同じだから、誠実じゃないと思うんです」と話す谷尻氏。

起業した当時と変わらない思いで一つ一つの仕事と向き合う不変のスタイル。それだけに、コンペなどではなく、SUPPOSE DESIGN OFFICEにお願いしたいという案件を優先的に選んでいきたいとも語る。では、どんな仕事を谷尻氏は選んでいるのだろう。

「ここ最近、メディアへの露出が増えたり、大きなプロジェクトに関わることが多くなり、“敷居が高い”と思われがちなのですが、そんなことは全然なくて。なんでもやります!ではないですが、プロジェクトの大小や予算は関係なく、僕たちに依頼いただくということは、必ず何かしらの理由がありますよね。その理由や思いを大切にして、仕事に取り組んでいきたいと考えています。請ける僕たちはもちろん、依頼する施主さん側も、それなりの覚悟を持ってプロジェクトに挑んでいきたいんです。お互いに思いや考えを共有できて、時には議論したり、時には一緒に笑ったり、そんな風に良い空間を提案していける関係性を築きたいですね。一方で、ここ数年、仕事を請けすぎて、僕や吉田をはじめ、スタッフたちが無理をしなければならない状況は避けるようになりました。健康的に働くことで、健全な提案ができる会社を作りたいと考えているので、そういった理由で仕事をお断りしなければならいないケースが、残念ながらありますね」と谷尻氏。

最後にSUPPOSE DESIGN OFFICEの個性の一つである、斬新な発想やデザインはどこから生まれてくるのか聞いてみた。
「“もの”を作るようになって、なんでそれが存在しているのか、ルールは誰が決めたのか、そういうことを考えるようになりました。僕は教養がない分、自分で考えるクセが自然と身についたのかもしれません。小さな子どもと一緒ですね。“なぜ”、“誰が”、“なんのために”、そんな問いを投げかけていくうちに、自分なりの解釈、答えが見つかるんです。世間は往々にして、そういった疑問を抱かずに、当たり前のもの、こととして納得してしまっているから、疑問を抱かない。だから、それ以上の発想が生まれてこない。そういう観点から見ると、僕の発想やデザインの原点は、難しくいうと哲学、簡単にいうと好奇心ですね」と笑う。

 


Vol.03 仕事と遊び。

起業した時と変わらない仕事に対する思いやスタンス、学んでないがゆえの自問自答の末に生み出される斬新な発想やデザイン。そんな考え方が自然と身についている谷尻氏は、仕事と遊びの関係性についてどう考えているのだろう。
「最初、SUPPOSE DESIGN OFFICEは仲の良い友人たちと一緒に立ち上げたんです。僕は建築関係でしたが、中にはグラフィックデザイン、音楽関係など、さまざまなジャンルの業種が集まっていました。よくいうと、デザインユニットみたいな(笑)。みんなそれぞれに“好き”を仕事にしていて、つまりは遊び=仕事だったんですね。僕も同じくで、遊びも仕事も明確な区切りはなくて。例えば、ご飯を食べに行っても、純粋に“おいしいね”だけでは終わらない。普通に考えれば、料理人の腕が良い、食材を厳選しているなど、料理の部分のみに着目しがちですよね。僕は、その理由を例えば、人がたくさんいるのに会話しやすい空間だったり、心地よい接客だったり、とにかくトータルに観察しています。プライベートな時間なので、そんなことを考察する必要はもちろんないのですが、ついついそんな統計データみたいなものを自分なりに取ってしまうんですよね」と、話す谷尻氏。

そんな、プライベートと仕事を分け隔てなく考える谷尻氏らしさを感じられるのがSUPPOSE DESIGN OFFICE東京事務所に併設しているダイニングカフェ「社食堂」だ。一般的にセキュリティなどの問題で閉塞的な空間にすることが多いオフィス。そんな常識に囚われず、「社食堂」はカフェスペースとオフィスの仕切りを取っ払い、もちろん一般のお客さんも利用OK。仕事と遊びを分け隔てなく考える谷尻氏らしいイノベーティブな空間だ。谷尻氏は、「社食堂」の発想の原点をこう話す。

「整然と机が並んでいて、同じ場所で日々仕事をするのがオフィスのあるべき姿なのか、という問いから入りました。そう考えると、例えばコーヒーショップでノートPCを開いて仕事をしている人もいるし、シェアオフィスの一角を借りてそこを仕事場にしている人もいますよね。中には、決まった場所で仕事をすることは、ほとんどないっていう人もいると思います。そう考えると、一般のお客さんも訪れることができる空間を作って、そこにオフィスがあってもいいんじゃないかと。ランチタイムは食事を楽しまれるお客さんで賑わい、日常的に当社の打ち合わせスペースにもなる。時にはイベント会場としても活用したり。もちろん、カフェ利用のお客さんが、ノートPCを開いてこの空間の一角を、その一瞬だけオフィスとして利用されていることもあります。住宅で考えると、とある一室に布団を敷けばそこは寝室に、テーブルを置けばダイニングに、デスクとチェアを設えれば書斎になるように、機能はあと付けできる。要は“この空間は、こうあるべき”という固定概念を取り払えばいいんです。昔は携帯電話と呼ばれていたものが、スマートフォンと名を変え、ただの“携帯できるだけの電話”ではなくなりました。さらにSNSで“自分自身”を発信することで収入を得たり、現在はさまざまな物事、シーンで垣根がなくなった時代。そういった意味でも、仕事と遊びを分けるよりも、常にいろいろな視点で物事を観察し、考察するべきだというのが僕の持論です」。

「社食堂」に代表されるように、空間の定義をあえて曖昧にし、カフェ、オフィス、イベントなど多様なシーンで活用できる“場”を創り上げた谷尻氏。 仕事と遊びの境界を設けないという、無理なく、自然に実践しているライフスタイルもまた、斬新な発想、イノベーションの源になっているようだ。

2020年に新たに始まる「LANDIC 2020 PROJECT」。その核となるのが「LANDIC西中洲HOTELプロジェクト」だ。 舞台は、福岡市のビッグプロジェクト「2024年天神未来創造・天神ビッグバン」の奥座敷であり、「天神中央公園西中洲エリア再整備事業」により、着々と開発が進んでいる福岡市内でも最注目のエリアの一つ、西中洲。 そのホテルのクリエイティブディレクション、設計、インテリアデザインを、谷尻誠氏、吉田愛氏が共同代表を務める、SUPPOSE DESIGN OFFICEが手がけることに決まった。 「LANDIC西中洲HOTEL」という空間で融合する、SUPPOSE DESIGN OFFICEとLANDIC。SUPPOSE DESIGN OFFICEの共同代表・谷尻氏はどんな思いで、このプロジェクトに臨もうとしているのか。


Vol.04 LANDICと谷尻誠。

SUPPOSE DESIGN OFFICEが手がけた宿泊施設というと、“泊まれる本屋®”がコンセプトのホステル「BOOK AND BED TOKYO」、サイクリスト向けのホテルを主軸とした広島県尾道市にある複合施設「ONOMICHI U2」、渋谷に2018年2月にオープンした「hotel koé tokyo」などが、代表的な作品として名があがる。さらに、自社でも2019年秋オープンを目指し、ホテルをメインとした複合施設を建設中だという。

これまで、心地よさと機能性を兼ね備えた住宅をメインに手がけてきたSUPPOSE DESIGN OFFICEの粋を集めるという点では、ホテルという空間の創造はうってつけなのかもしれない。
谷尻氏は「ホテルでの過ごし方は寝る、風呂に入る、食事をするなどがあげられます。これは場所や広さなどが違うだけで住宅と一緒なんです。そう考えると、ディベロッパーとして多くのマンションを手がけてこられているLANDICさんの今までの仕事と同じだと僕は考えていて。だから、LANDICさんがホテル事業に着手するのはとても自然な流れですし、ディベロッパーとしての今後のブランディングにもつながるはずです。どんなホテルを創り上げていくかは、これから詰めていかなければいけませんが、一つ案として考えているのが、アートを柱に据えること。住宅でもアートを取り入れるだけで、普段の暮らしが豊かになりますよね。それと同じ考えで、今回のプロジェクトで手がけるホテルにはアートというキーワードが不可欠になると考えています。ほかの施設にないコンテンツがあるホテルを創ることができたら、カスタマーに選ばれる確率も高くなる。僕がどんなプロジェクトでもいうことなのですが、分類されたら終わりなんです。どう分類されないホテルを作るかが重要」とプロジェクトについて構想を語る。

他のホテルにはないコンテンツ。選ばれる可能性を高めるためのフック。その一つがアートというわけだ。
さらに、谷尻氏はこうも続ける。

「とはいえ、ホテルに泊まるという行為は非日常。僕は非日常と日常が混在するホテルであることも大切だと思っています。例えば、旅先でおいしいレストランや居酒屋などを知りたいとき、ローカルの知人がいれば、その人におすすめのお店を聞きますよね。ホテルも一緒で、地元の人からおすすめされるのが一番のストロングポイントになる。ただ、その街に住んでいる人がホテルを利用することはほとんどないのが従来のスタイル。それなら、地元の人も利用するような仕掛けを考えればいいんです。地元の人々が何かしらの目的を持って日常的にホテルを利用し、魅力を感じていただけさえすれば、その良さは自然と広まっていくはず。とくに現代はSNSが普及し、その波及効果はとてつもない。要は博多に暮らす人々のことを考えることが、他県から福岡を訪れる人を考えることにつながる。もちろん逆も然りです。日常と非日常が混在するホテル。そんな空間を創り上げたいと思っています」。

PROFILE
谷尻誠
プロフィール画像
1974年広島県生まれ。穴吹デザイン専門学校卒業後、本兼建築設計事務所、HAL建築工房を経て、2000年にSuppose design officeを設立。2014年にSUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltdとして法人化し、現在、広島と東京の2拠点で活動中。 これまで手がけた作品は住宅だけでも100件を超える。
代表作は高台に建てられた住宅「毘沙門の家」、福岡市の「桧原の家」、2014年にオープンして以来、 尾道を代表するスポットになった「ONOMICHI U2」、サステイナブルにも特化したアート性の高い複合施設「New Acton Nishi」など多数。 SUPPOSE DESIGN OFFICEとは別に、風景のリノベーションを行い、敷地のポテンシャルを引き出す不動産会社「絶景不動産」、現在のテクノロジーと受け継がれる手作りという職人技を組み合わせた施工会社「21世紀工務店」を設立するなど、活動は多岐にわたる。
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